眼瞼痙攣 とは (総説)
まぶたの皮膚の裏に存在する筋肉(眼輪筋)が過剰に収縮して、まぶたを閉じる力が、開く力より強くなり、不自由を感じる状態です。神経学的には、局所のジストニアと呼ばれます。子供でも、無意識に上手に「まばたき」ができるのに、うまく「まばたき」をすることができません。物をよく見るには、目を見開く必要があります。するとすぐに、目の表面が乾燥して、つらくなります。そこで、パチッと1秒よりも短い時間で、「まばたき」をします。目の表面に涙がついて、うるおいます。ふたたび、目を見開くことができます。この作業の繰り返しで、物をよく見つづけることができるのです。
はさみで、1メ-トルの布を切る作業を考えてみてください。刃を閉じることにより、布を切ることができます。ここで、閉じた刃を開いて、次に切る準備をしなければなりません。刃を開いたら、ふたたび刃を閉じて、布を切ります。もしも閉じた刃が開きにくくなったら、上手に布を切り進めることができなくなります。普段は意識することなく、ス-ッと布を切っていますが、実は、その根本に、「閉じる」「開く」の上手な連続が不可欠なのです。「まばたき」もまったく同じです。普段は、何も考えることなしに、上手にできます。これが上手にできなくなった状態が、眼瞼痙攣なのです。
「痙攣」という言葉が用いられていますが、ギュッギュ-と眼輪筋が強く収縮することは、重症例に見られるものであり、診察してみると、通常は無意識にできるはずの「閉じる」「開く」が上手にできない状態であることが明らかになります。神経医学では、 dystonia (ジストニア)に分類されます。dystonia とは、dys + tonia であり、ギリシア語の tonos に語源があり、筋肉の緊張が異常な状態を意味します。すなわち、自分の意思で動かしている「正常の状態」とは異なり、本人の考えでは制御できない状態の筋肉緊張で、繰り返し慢性的に特定の筋肉が収縮して身体を変形させます。
この現象がまぶたに生じると、目を開けて、物を見続けることがつらくなります。眼科クリニックをいくつか回ったが、ドライアイ、眼精疲労、白内障、眼瞼下垂などと診断されて、点眼薬を処方されたが、自分の苦痛は改善しなかった。眼瞼痙攣を知る専門の医師から指摘され、詳しく説明を受けて、はじめて異常を理解できた、というのが、よく聞く話です。しかしながら、これは、仕方の無い状況でもあります。その理由は、眼瞼痙攣を多数経験していない医師には、上記疾患の不定愁訴と思えてしまうからです。